1960年代から1980年代の末にかけて、喫茶店の店舗数が増え続けました。日本の経済が高い成長を続けていた頃の話しです。
そして、1980年代の中頃、喫茶店は十数万店舗を数えるまでに増加していました。
喫茶店の商圏人口が800人と言われた頃で、脱サラ族人気ナンバーワンの商売だったのが、その頃の話です。
当時、焙煎したコーヒー豆を喫茶店に供給するロースターの喫茶店支援機能が充実していて、喫茶店商売のイロハを教えてくました。
資金を用意できれば、だれでも喫茶店を開業できたわけです。
窮屈な宮仕えから脱サラして、小さくても一国一城の主ということで、外からなら気楽そうに見えた喫茶店稼業を目指す人が多数いました。
喫茶店にレギュラーコーヒー豆を納品していたのが、ロースターと呼ばれるコーヒー豆の焙煎屋さんです。
そのロースターですが、喫茶店の店舗数増加に比例するように、それほど努力しなくても事業規模は自然と拡大して行きました。
レギュラーコーヒー豆だけを製造販売していたのが、砂糖やシロップ・フルーツの缶詰も取り扱うようになり、喫茶店のメニューに軽食が登場するようになってくると、冷凍食材やレトルト食材も取り扱うようになったわけです。
意識の高いロースターは、開業支援や営業支援などのコンサルタント機能も強化していました。
喫茶店側としては、ロースター経由で食材やコーヒー関連商品、それに食器類や厨房器具を購入する方が便利です。
それに営業ノウハウの提供もしてくれるわけですから、フランチャイズチェーンに加盟しているのとおなじで、労働力を提供していれば商売を営むことができました。
ということで、ロースターは、レギュラーコーヒー豆以外の商品の取り扱いや商社機能を強化していきました。
喫茶店の新規開店を請け負えば「儲けられる」ということで、コンサルタント機能を強化するロースターもありました。
1990年代に入ると、喫茶店の店舗数が減少を開始して、21世紀の現在、最盛期の約半数の店舗数にまで落ち込んでいるのですが、まだまだ、喫茶店の店舗数の減少傾向は続いています。
店舗数も減少しているのですが、それ以上に、喫茶店の利用者数が激減してしまっています。
喫茶店の衰退に歩調を合わすかのように、ロースターの衰退傾向にも顕著なものがあります。
レギュラーコーヒー豆以外の商品やサービスは、大規模ロースターは例外として、中小規模ロースターの経営に何もメリットを与えてくれていません。
それどころか、利益率の小さいコーヒー関連商品や食材が、中小規模ロースターの経営を圧迫していたりするわけです。
一方、アメリカの喫茶店・ロースター事情です。
アメリカでは喫茶店の店舗数が増加を続けていて、それに歩調を合わせて、地域ロースターの経営も順調に推移しているみたいです。
アメリカで発行されているロースター向けの専門雑誌なんかでは、ロースターの多角化戦略が推奨されたりもしています。
焙煎コーヒー豆だけでなくて、コーヒー関連商品の取り扱いや、IT技術を駆使して喫茶店をバックアップする体制の確保などが必要だと説かれています。
喫茶店とロースターが「Win-Winの関係」を維持するためにも、ロースターが多角化・多機能化の道を歩む必要があるということで、アメリカのロースターは、その方向に進みつつあるみたいです。
ですから、日本のロースターの多角化・多機能化の方向性は、決して間違っていなかったのだと思うのですが、それでは、何が足らなかったのだろうかと考え込んでしまうわけです。
日本の喫茶店は衰退を続けていて、アメリカの喫茶店は繁盛しているのですから、何かが違うわけです。
徹底的に、アメリカの喫茶店環境とロースター環境を研究する必要性があるのかもしれません。
(2010年頃のエカワ珈琲店です)
【追記/2016年3月4日】
アメリカでも日本でも、これからの独立系喫茶店(個人店)は、コーヒー豆を自家焙煎する喫茶店の方向に進んで行くのだと思います。
日本のロースターの多角化、多機能化は、独立系レストランや地域飲食チェーン店に便利を提供する方向に進んで行く可能性が高いと考えています。
神戸に本社を持つ日本最大のコーヒー企業のビジネスを観察していると、そちらの方向に向かいつつあるように思われます。
エカワ珈琲店は、この日本最大のコーヒー企業に悪い感情しか持っていないわけですが、ビジネスの戦略としては間違っていないと思っています。
でも、規模の大きいコーヒー企業を利用すると、便利かもしれませんが、どの店でも同じ商品をサービスを提供しているフランチャイズチェーン店のようになってしまって、店の個性が無くなってしまう可能性があると思います。
小規模な飲食店の生命線は「差別化」だと思います。
だとすると、不便でも、小規模な地元のコーヒー豆焙煎屋さんや、地元の食材屋さんを利用するのが理に適っているとエカワ珈琲店は考えています。